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化学業界で活用広がるQSAR
化学物質の毒性を効率的に予測
管理規制の厳格化に対応
化学物質の有害性などを低コストかつ効率的に予測できるin silico(コンピューター)手法の1つとして、化学産業界で注目が高まるQSAR(定量的構造活性相関:Quantitative Structure-Activity Relationship)。製薬業界では新薬開発において候補物質の初期スクリーニングに古くから利用されてきたが、世界的な化学物質管理規制の強化にともない化学業界でも活用例が増えつつある。
※経験則を統計処理※
構造活性相関(SAR)とは化学物質の構造上の特徴などと生理学的活性(毒性など)との相関関係のこと。QSARはこの相関関係に用いられる変数や関係性から見いだされる生理活性の度合いを定量的に捉えたものを指す。QSARモデルは化学物質の構造上の特徴と毒性の関係性を表す相関性を用い、化学物質の未知の毒性などを予測できる。「この化学構造や物性であれば、この毒性を持つ可能性が大きい」という経験則を統計学的に処理して予想することだ。
化学物質の毒性を動物実験で評価する場合、数千万円から億単位の費用が必要といわれる。QSARモデルを使えば、試験を行うことなく化学物質の毒性情報を得られるメリットがある。
※自主管理にも有用※
新規・既存を問わず、事業者に対して化学物質の情報登録やリスク評価を要求する化学物質管理規制が世界的に整備されつつある。化学物質評価研究機構(CERI)安全性評価技術研究所の赤堀有美主任は「QSARモデルが利用できれば、化学メーカーは規制対応だけでなく、原料化学物質の自主管理を迅速かつ低コストで進めることができる」と解説する。
予測精度の高いQSARモデルが確立している毒性のエンドポイント(評価項目)の1つが濃縮性。濃縮性は作用機序(化学物質などが生体に作用するメカニズム)が分かりやすいことも、高精度モデルが存在する理由。ただ、急性毒性、全身毒性、発がん性など多岐にわたる毒性のエンドポイントすべてをQSARモデルで評価できるわけではない。全身毒性の評価は既存の動物実験結果が不足しているため相関式を作りにくく、作用機序が明確でないことなどからもQSARモデルを構築しづらい。
※米が先行、欧日も※
しかし、日本を含む先進国では政策的な後押しも受け、QSARモデルの行政での活用が本格化しつつある。最も多く活用されているのが米国。事業者が有害物質規制法(TSCA)に基づいて提供した情報を対象に、環境保護局(EPA)が独自に開発した複数のQSARモデルを用いて追加試験の要不要などを判断している。
欧州もREACH規則で化学品のメーカーおよび輸入者が化学物質のリスク情報など登録に必要な情報を得るためにQSARを活用することを認めている。現状では全身毒性に関するメカニズムなどのデータが不足しているためQSARモデルの使用数は少ないが、同規則の運用にともなって情報公開が進みデータが蓄積されることで新たなモデル開発なども進展するため使用数は増えるとみられている。
新規化学物質の事前審査制度を導入した日本の化学物質審査規制法(化審法)は、濃縮性評価についてQSARの活用を一部認めている。
OECD(経済協力開発機構)は行政がQSARモデルを使用する際の5原則を策定ずみ。CERI安全性評価技術研究所の宮地繁樹課長は「化学物質管理規制は主体が行政から事業者へと変わりつつある。この流れに対応するため、事業者も扱う化学物質の安全性を自ら評価することが必要となっている。QSARを使用する流れは強まる」とみている。
(中村幸岳)